血液内科を選んだ理由と経歴 | Case 1
2022.11.02
近川 由衣
金沢大学 2015年卒
血液内科を選んだ理由
医学類入学時から、いわゆる「お医者さん」のイメージである内科医になりたいという思いがありました。学んだ疾患すべてに興味がわく一方、臓器別に細分化された現代医療では、一人で全身を診るわけにはいかないのだと感じました。全身臓器に病巣が生じうること、そしてリンパ球を中心とする免疫病態にひかれ、血液内科と膠原病内科に興味を持ちました。血液内科を選択した決め手は、他分野では「末期」と形容され得る患者さんが、高強度の化学療法や免疫療法の最たるものである造血幹細胞移植によって快方に向かうドラマチックさです。手術やカテーテル治療のような目に見える華々しさはありませんが、実はすごいことをしている、というのがかっこいいな、と思っています。
血液内科医としての経歴
初期研修は金沢大学附属病院の血液内科専門コースを選択し、初期研修終了と同時に血液内科に入局しました。自分は特別枠入学で、卒後3年目は血液内科のない奥能登に赴任することが決まっていたため、初期研修医のうちから血液内科医として研鑽を積みたいと思ったのが理由です。
1年目:初期研修医として金沢医療センターで血液内科以外の科をローテートし、医師としての基礎を学びました。
2年目:金沢大学附属病院血液内科で9か月間研修し、同種造血細胞移植を含めた血液内科治療を学びました。主治医チームの一員として治療方針決定に参加し、医学論文の選び方・読み方を身につけました。
3年目:一般内科医として穴水総合病院へ赴任しました。診療科の垣根をこえて(時には外科症例も含めて)、多様な患者さんを担当させていただき、内科医としての実戦経験を積むことができました。おかげで内科認定医の症例サマリー作成には苦労しませんでした。一方、医療過疎地の現状と限界も学びました。週1回の帰学日をいただき、金沢大学での抄読会や研究発表に参加しました。ヘモグロビンF分画の増加が骨髄異形成症候群発症に先行した興味深い症例を内科学会で発表し、若手奨励賞を受賞しました。
4年目:血液内科医として石川県立中央病院に赴任しました。移植症例から良性疾患まで幅広く経験し、新患のたびに本や論文にかじりつく日々でした。上級医のいない時間外オンコールでは血の気が引くような経験も数多くしましたが、3年目の血液内科医としてのブランクを埋めることができたように思います。
5年目:金沢大学附属病院で勤務しました。病棟では指導・バックアップ体制が万全なチーム制が構築されており、重症例や複雑な症例も安心して診療することができました。1コースのCHOP療法が著効したEBウイルス関連血球貪食症候群(EBV-HLH)を報告する機会をいただき、ビーズを用いた血球分離などの実験手技も経験しました(Chikagawa Y et al. Int J Hematol 2020)。成人白血病治療共同研究機構(Japan Adult Leukemia Study Group: JALSG) のYoung Investigator ASH Travel Awardに選出いただき、オーランドで開催された第61回アメリカ血液学会に参加することもできました。最先端のトピックスから日常の疑問を解すものなど、目を見張るような演題ばかりで、時差ボケを押して広い学会会場を駆け回りました。
6年目:七尾市の恵寿総合病院に赴任しました。地域柄、高齢患者さんが多く、患者さんにとって少しでも良いことは何かと考え続けた一年で、自己満足に陥らないことを肝に命じる必要がありました。また、2~3月は産休に入らせていただきました。
7年目:医師としての経験をより多く積みたいという思いから、長期の育休はとらず、産後2ヶ月目から再び穴水総合病院に赴任しました。血液内科のない病院ですので、悪性貧血や骨髄異形成症候群など血液疾患のコンサルトを数多くいただきました。資源の限られた中での血液診療は悩むことも多く、今までいかに周囲に助けていただいていたか、身にしみました。この年に血液専門医を取得しました。
8年目:昨年血液内科が新設された小松市民病院で勤務しています。HLA検査システムの構築や無菌室建設、移植ドナーコーディネイトなど、新たな業務を担当させていただき、刺激的な日々を送っています。育児があるとこれまで通り働くことはできず、患者さんに不利益のない診療を行うための時間の使い方を模索している最中です。
学生・研修医の皆さんへ
医学類への特別枠入学では、医師不足地域で4年間勤務する必要があり、専門性の高い血液内科を選択することに不安がありました。しかし、どの科を選んでも、思い通りにならないこと、理想と異なることは起こるものであり、であれば好きなことをしようとの思いで、血液内科の道に進みました。まだまだ研鑽途中ながらも、家庭を持ちつつ、血液専門医として地域医療の一端を担うことができるようになりました。いざ何かを決めるときには、不安が足を引っ張ってくるものですが、血液内科を「いいな」と思っていただけたのであれば、その気持ちを大事にしていただけたらと思います。