VEXAS症候群

VEXAS症候群

2024.04.18

材木 義隆

VEXAS症候群(Vacuoles, E1 enzyme, X-linked, Autoinflammatory, Somatic)は、骨髄不全症と自己炎症性疾患の両方の特徴を持つ新しい疾患で、主に50歳以上の男性が発症します。原因不明の炎症性疾患を持つ患者を対象にした大規模な遺伝子解析研究を通じて、2020年に米国国立衛生研究所(NIH)のグループによって報告されました(Beck et al. NEJM 2020)。

 

VEXAS症候群の本態は、造血器腫瘍(血液がん)です。X染色体上のUBA1遺伝子に後天性の変異が生じた造血幹細胞が腫瘍性に増殖し、大球性貧血~汎血球減少を認めるようになります。さらに、UBA1変異細胞から放出されるサイトカインによって、多彩な全身性炎症症状(発熱、再発性多発軟骨炎、肺炎、皮膚炎、血管炎など)が引き起こされます。骨髄検査を行うと、骨髄系および赤芽球系前駆細胞の細胞質に空胞が認められることが特徴的です。M蛋白血症を合併することもあります。

 

VEXAS症候群の臨床所見 Beck DB et al. NEJM 2020

 

VEXAS症候群の血球減少や炎症症状は、ステロイド内服などの免疫抑制を行うことによって一時的に軽減されます。ただし、免疫抑制によってUBA1変異を獲得した腫瘍細胞が除去されるわけではないため、ステロイドの減量に伴って症状が必ず再発してしまいます。そのため、欧米を中心に、他の血液がんで用いられる同種造血細胞移植、抗がん剤(アザシチジンなど)、JAK2阻害薬などの治療法が検証され、有効性が報告されています。

 

一方で、VEXAS症候群の認知度は専門医の間でも低く、さらにほとんどの医療機関ではUBA1遺伝子変異の検査を実施できないため、現在も日本全国において多くの患者さんが、未診断のまま盲目的な治療を受けていると考えられます。

 

当院で診断したVEXAS症候群の一例 結節性紅斑、発熱を伴うMDSに対して、症状緩和目的にステロイドが投薬されていた。血球減少が進行したため再検した骨髄検査で骨髄球と赤芽球に多数の空胞を認めたことから、VEXAS症候群を疑った。UBA1遺伝子解析により、p.Met41Thr変異を認め、VEXAS症候群の診断に至った。

 

金沢大学血液内科では、これまでに2000例以上の骨髄不全症を対象としてUBA1変異解析を行い、多くの新たなVEXAS症候群を診断してきました。現在も、さらに対象を拡大して解析研究を続けています。この取り組みにより、より多くの患者さんの早期診断と適切な治療が可能となることを目指しています。

 

臨床的にVEXAS症候群が疑われる症例については、当面の間、血液や骨髄をお送りいただければVEXAS症候群と関連するUBA1変異の有無を解析させていただくことが可能です(こちらのフォームからご依頼ください)。UBA1変異が陽性であることが判明した場合は、観察研究へのご協力をお願いすることがあります。

 

VEXAS症候群の特徴
・50歳以上の男性(女性の発症例も報告あり)
・赤芽球や骨髄球に空胞を認める
・大赤血球症(MCV高値)、大球性貧血(ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏、慢性肝疾患は除外する)
・炎症症状(再発性多発軟骨炎、発熱、肺炎、皮疹、血管炎など)
・MDS、血栓症、M蛋白血症